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浅井経子先生の退任について

2023/03/31

浅井経子先生が、本年度(令和4年度)末をもって本学教授を退任されることになりました。令和5年度より非常勤講師として就任予定です。

浅井先生は、本学開学時から長きにわたり本学の教育研究に寄与されました。先生の教えを受けた多くの卒業生・終了生は全国そして海外で活躍されています。そして、その輪は現在も広がり続けています。

長年にわたる浅井先生のご尽力に感謝し、略式ではございますが、ここにお知らせいたします。


浅井経子先生からのメッセージ


 

退職に際して

 

                                           令和5年3月  浅井経子

 

時代が大きく動いている現在、過去の経験にどれほどの意味があるのか、と思います。そう考えると学生、卒業生の皆様にお役に立つのか分かりませんが、できるだけ日常生活に即して、幾つかの経験を述べさせていただこうと思います。甘いかもしれませんが一応「研究」の道を歩んで参りましたので、それに関わる経験であることをお断りします。

〇これまで科学的研究に取り組んで参りました。科学であることの条件は、①論理的整合性、②事象との照合です。わかりやすく言えば、①は筋道だっていることで、②は観測(経験)を通して確かめることです。①では定義、概念規定(操作的なそれを含む)が重要です。使う用語に曖昧さがあれば論理は破綻します。②は反証可能であることを意味します。事象に照らして確かめる検証には反証が含まれます。逆に、反証不可能なものとして信仰、イデオロギー、主義主張、「べき論」等々があげられ、科学とは異なるものです。
例えば、夫婦喧嘩をするとき、相手の理解を得るには論理的であることが求められます。それが①です。"昨夜の夕食"について言い合いになっているとき、一方は夕食の中身を言い、他方は夕食の時間帯を言っていればかみ合う筈がありません。"昨夜の夕食"とは何かを定義し、双方が同じ土俵に立つ必要があります。
さらに、証拠(evidence)を示す必要があります。それが②です。データでも事例でもよいと思います。証拠のない主張は"唯我独尊"です。
最も、ストレス解消のための夫婦喧嘩にあっては①も②もありませんよね。

〇研究にあっては世界観が問われます。世界観と言うには大袈裟かもしれませんが、世界がどのように成り立っているか等についての考えです。もちろん人間の存在だけでなく自然界も含みます。研究のみならず、ものの見方や生き方にも関わると考えています。
先日、本棚の中から古いノートを見つけました。ノートは研究のことから市井の中で気づいた問題解決策までをメモしたアイディア集でした。日付は平成2年でした。ある頁に、群論に基づく数式が記されていました。
なぜ群論かと言いますと、群論は対称性の世界を説明するのに有効で、対称性といえば規則性です。自由意思で行っている学習行動にも、実は規則性があるに違いない、と考えたからです。ちなみに群論は一から自分で勉強しました。頭が悪いものですから、"群"が何かを理解するまで精神的におかしくなるぐらい苦しい日々を数年費やしました。
朝が来て夜が来る・・・そのような規則性は学習行動にも見出すことができ、モデル化できます。しかし、完全な対称性の世界は死の世界を意味します。学習に関わる研究ですから、むしろ変容、発展等がより重要なのではないかと考えるようになりました。
つまり世界を規則性でみることから変化、変容、発展で捉えることに関心が移っていきました。当時はシステム論、非平衡、散逸構造、カオス理論、複雑性の科学等々が流行していたこともあり、不可逆的な"時間の矢"を考えるようになったのかもしれません。
変化、変容、発展を明らかにするために、40代後半頃は、学習行動に関する多様化と集中のダイナミクス等の非線形モデルをつくったりしました。しかし、検証するデータはありません。物理学が理論物理と実験物理に分かれているように、反証可能なモデルであれば検証なしでも許されますが、少々空しさを感じました。
その頃から生涯学習支援スキル開発に取り組みました。人間が生きる世界にあっては有用性が求められるのではないかと考えたからです。皆さんにテキストを通して学んでいただいた学習相談やコーディネートの理論とスキルはその成果です。なお、今後はそれらを、AIを組み込んだものに発展させていくことが課題と思っています。
2030年には社会は激変すると予測され、人類が存続できるかどうかの分岐点とも言われています。さて、私たちはどのように世界や人間を捉えればよいのでしょうか。

〇規則性と不規則性、対称性と非対称性、決定論と非決定論、粒子と波(箱の中のネコは生きているのか死んでいるのか)・・・もちろん世界は常に二項対立で構成されているわけではありませんが、相反する性質が共存する不可思議さは計り知れません。
K.Popperは人間の歴史には法則性はない、傾向性があるだけ、と述べています。法則を発見した途端、人はその法則に反する行動を選択し、自分だけ得をしようとするに違いありません。その行為によりその法則性は成り立たなくなります。ただし、統計的調査のように、大数の法則の下で"傾向性"を捉えることは可能です。
規則性と不規則性(生成、発展、変容、あるいは時間の矢等)の接点を解明する研究があってもよいのではないかと考えます。"傾向性"もその一つかもしれません。漠然としていますが、そのようなことを考えてもよいかな、と思っています。

〇「牛若丸と弁慶の糊づくり」と言いますが、何かを成し遂げるには根気と忍耐で一粒一粒つぶしていくよりほかありません。電算機が容易には使えなかった時代に行った実験計画法では、朝早くから夜遅くまで電卓を打ち続けてアルゴリズムを繰り返し、一つの値に収れんするまで4,5日かかったことがあります。PCで計算できるようになっても、数か月間来る日も来る日も説明力のある要因の組み合わせを探して重回帰分析を繰り返しました。
途方に暮れるような思いでいるとき、大男の弁慶が汗をふきふき続飯(糊のこと)練っている姿を想像します。前に進むにはそれしか方法はないのです。
皆様も、個人学習を基盤とする本学の勉学にあって同様の体験をされたのではないでしょうか。でも確信しています。その経験は皆様にとって、人生の中で最も尊い贈り物ではなかったか、と。

〇研究成果の応用の機会として審議会や委員会、調査研究等を通して政策、計画の立案に関わってきました。その中で心掛けたことの一つ。それは"未来からの発想"です。
何十年も先のことはSFの世界ですので2,3年から10年先をデータ等に基づき予測して未来に何が求められるか等を分析します。そして、その未来を手繰り寄せるために現在、何をすべきかを検討します。もちろん、現状分析や法律や上位にある計画等からの導出は必要不可欠ですが、それだけではなく、少し先を思考実験することも重要のように思います。
私たちは日々小さな決断をしています。そのようなとき、現状からの成り行き任せの出発ではなく、ちょっと先を"科学的"に思考実験してみてはどうでしょう。

拙い私の経験を記してきましたが、むしろ偉大な先輩から学んだことをお伝えした方が皆様にお役に立つかもしれません。そこで、ご指導いただいた3人の方のお話をさせていただきます。この方々からは語りつくせないほど多くのことを教えていただきましたが、ここでご紹介するのはほんの一端です。お生まれになった年代順に記させていただきます。

〇国立社会教育研修所(現在の国立教育政策研究所社会教育実践研究センター)の初代所長の二宮徳馬先生にはドイツ語や社会教育の神髄を教えていただきました。繊細さ、気高さを秘めたStormの『湖(Immensee)』を一緒に読んでいただいたことは忘れ得ぬ思い出です。
教えていただいたことの一つは「今からでも遅くはない」ということです。

〇社会教育法を起草された井内慶次郎先生(元文部事務次官)がよくいわれていたことは、社会教育は国民が行うもので、行政が行うのはそのための環境醸成である。したがって公的社会教育も民間社会教育もない、ということでした。「行政は教育をやらん!」というお言葉は教育行政のトップに立たれた方の見識であると考えますと、言葉がありません。
新しい領域の事業に着手されるときには、何冊もの関係図書を読破して基礎知識を身に付けるよう努められていました。当たり前に過ぎゆくものごとでも、その水面下にあっては、最高位にある人までもの果てしない努力が繰り返されているものなのです。
行政の妙に関わる様々なお話も伺いましたが、"妙"は簡単に文字にできません。残念です。

〇筑波大学名誉教授の山本恒夫先生(本学元学長)は関係の公理系、関係計算法を構築されました(日本生涯教育学会「生涯学習研究e事典」http://ejiten.javea.or.jp/に掲載されています)。アリストテレス以来「実体」にのみ目が向けられてきたが、世界は「実体」と「関係」で成り立っているとお考えでした(近年、C.Rovelliは『世界は「関係」でできている』といっていますがそれは量子論の観点からのものです)。ちなみに、山本先生から"創造"は関係変換で捉えることができる、と教えていただいた卒業生は数多くいらっしゃるのではないでしょうか。
山本先生は"科学"ではない研究はお認めにはなりませんでした。言いかえれば、研究は"反証可能"でなければならないと言うことです。人間の生き方についても、正しいことを証明することよりも間違いを見つけることの方が重要、と常々言われていました。また、事象は一瞬しかとらえることができず、捉えたと思ったその瞬間には、もう次の事象になっている、と世界を捉えていらっしゃいました。

最後になりましたが、皆々様のご健勝とご活躍を心からお祈りいたしております。


・浅井経子先生プロフィール
https://www.yashima.ac.jp/univ/about/information/teacher_asai.php

*浅井先生へのメッセージは学生支援センターでお預かりいたします*
メール:u-info@yashima.ac.jp
FAX:045-324-6961
住 所:〒220-0021 神奈川県横浜市西区桜木町7-42

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