浦島太郎
2005/11/07
貧しくても誠実な暮らしをしていた太郎が、こっけいな人物として描かれている浦島太郎のお話はだれもがよく知っています。乙姫様は、どうしてそのような玉手箱をあげたのだろう。それはないだろうに。...ある学生さんのレポートでのつぶやきです。
そうですよね。太郎は乙姫様の大切な配下であるカメを助けたのです。ですのに、乙姫様は、太郎や太郎のお母さんを悲しませてしまいました。乙姫様は、なぜに、太郎にあのような玉手箱を持たせたのでしょうか。このことは、私も気になっていたことでした。今回の学生さんの指摘を機会に、再び、悩んでみました。
私は子どものころ、このお話を聞いて、乙姫様に悪感情をいだきませんでした。なぜなのでしょう。白雪姫に毒りんごを食べさせるおばあさんには嫌悪感をいだいたのに、太郎にあのような玉手箱を渡した乙姫様には同情的でした。乙姫様が、この箱は決して開けてはいけませんよ、と念をおしたとき、太郎は、わかりましたと、了承しました。その約束をたがえたために、太郎はおじいさんになって当然だと思っていたようです。その、子どものときの感覚に添って、考えを進めてみます。
太郎が竜宮城に行った時、あまりの楽しさに家のことを忘れてしまいました。貧しくても母を助けて誠実に生きることに価値観を抱いていたはずなのに、きらびやかな生活を目の当たりにするとそのなかで面白おかしく生きていくことに魅力を感じたのです。しかし、それが長引くと、良心がうずき始めました。夢のような生活は、結局は落ち着くところではなかったのです。
しかし、感傷的に現実の世界に戻りたいと思っても、一度、放蕩生活の楽しさを知った者には、自分を今まで以上に厳しく戒める自戒の念が必要になります。気にそわないことをがまんする力やいやなことに耐える力が弱くなってきているからです。それで、かつての誠実な生き方を取りもどさせるために、乙姫様は「開けてはいけない」という「玉手箱」を渡したのではないでしょうか。太郎が、「開けたい」「いや、開けてはいけない」という葛藤に苦しむ中で、現実の中で生きていける誠実さを取り戻していけると考えたのでしょう。
それがかなわぬ時、太郎は現実の中でも「飲めや歌えや」を要求することになるでしょう。それでは、かわいそうですが、太郎は社会の中で「つまはじき者」になってしまいます。もしかしたら、罪を犯すことになるかもしれません。乙姫様は太郎がそうなってしまうことが忍びなかったのでしょう。太郎が老人になれば、「飲めや歌えや」の我欲はおさえられるでしょう。だから、太郎にはふびんですが、太郎が誠実さを取り戻せなかった時、玉手箱に、太郎が老人になるべくの仕掛けをしたのだと思います。そうすれば、太郎は、太郎なりに人に迷惑をかけることなく生きていくことができます。
では、なぜ、乙姫様は、太郎を、お礼にと竜宮城に招待したのでしょう。それは、乙姫様の生活感覚は、太郎のそれとは違っていたということでしょうか。乙姫様は、太郎に、自分のできる最大の御もてなしをしたいと思ったのでしょう。しかし、それは、太郎にとっては、過重負担だったのです。最近、お礼で一億円を渡したというニュースがありました。そして、そんなことは覚えていないよ、小さなことだよと、歯牙にもかけない世界もあることを知りました。いやはや、お礼というものも、分相応に受け取るべきなのでしょう。
現実の世界に、平々凡々と生きていくことが、いかに貴重なことであり、取り返しのつかないものであるか。太郎の行動を言い伝えてきた人々は、そのことの価値を再認識しつつ、人生の生々流転のなかにある、現実逃避の希望や諦めを笑い飛ばしてきたのかもしれません。
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