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渡邉達生の研究室便り

怒りを鎮める器

2009/08/07

写真は、心を鎮めるための作品(制作途中)です。

 江戸時代の儒学者中江藤樹は、自分の心に迷い・悲しみ・怒りの心が生じた時には、庭に置いた石に静かに水をかけ、 自分の心を正していました。その石に代わるものを、陶器で作れないかと考えました。ドンブリ鉢のようですが、内部の底は平らにしています。

 やがて、この鉢の中に、タワーを設置。タワーの中には下から上に水をくみ上げる、普通、水槽の上についている電気仕掛けの濾過機を、縦に仕込みます。鉢の中に入れられた水は、タワーの中を下から上にのぼり、タワーの外を、流れ落ちる仕掛けです。ミニチュアの、自動噴水器。名付けて「怒滅却器」。怒りを鎮める器です。

 周りの人が、面白がってくれています。

 昔話『さるかにがっせん』では、かには、柿の木にのぼって柿を食べているさるに向かって、「ぼくにも柿を取ってください。」と頼みます。

 でも、さるは聞き入れてくれません。「わたしが育てた柿だよ。わたしの柿だよ。」というかにの主張は、もっともな主張で、理のあるところです。でも、その主張はさるの心を動かすことはできませんでした。それどころか、かえってさるの心を意固地にさせ、「生意気だ」とかにに青い柿をぶつけるようにさせたのです。

 かには悪くはありません。しかし、さるがそのような行動に走ったのは、かにに足りないところがあったからだと、考えることができます。

 かににとって、さるは、柿のタネを運んできてくれた大切な人であったはずです。柿の木を育てる楽しみを与えてくれた人なのです。育てた柿の実をさるにひとりじめされて、くやしい思いはあるでしょう。しかし、「水に流す」という言葉があります。くやしさを流れる水に放すことができたら、どれほど心地よいことでしょう。そして、さるに向かって、「柿のタネをありがとう。おかげで、柿の木を育てる楽しさを味わうことができたよ。お礼に、どうぞ、柿の実を召し上がれ」という言葉をかけられる心の余裕ができることでしょう。それによって、さるの心も変わっていくのです。

 わたしのことで、ずっと、ずっと、追憶の彼方にある思い出があります。あれは、小学校3年生のときの、遠足の帰り道でのことでした。帰る道は、近所の子どもたちがまとまって帰ることになります。その帰り道で、わたしは同級生の子から泣かされました。理由は何だったのか記憶がありません。ただ、そのときの同級生の怖い顔と、くやしくて泣いているわたしが強く印象に残っています。そして、わたしの家への分かれ道に来ました。そこから家まで50メートルはあったでしょうか、わたしは家への道を泣きながら一人で歩きました。遠足の日というのに、何というさびしい展開でしょう。ますます、泣き声は高まったように記憶しています。ところが、家の前で、足が止まりました。何だか、そのままではいけないような気がしたのです。見られているような気がして、みんなと別れた道のところをふり返りました。すると、わたしを泣かした子が、まだそこにいて、じっとこちらを見ていました。わたしは、泣くのをやめて、家の裏口にまわりました。その子を見ると、その子も安心したように帰って行くところでした。わたしは、涙をふいて、何事もなかったかのように家に帰ったのでした。
  今から、50年以上も前のことです。あのとき、どうして、泣きながら家には入らなかったのか、自分を制していたものは何だったのか。
 その子は快活な子で、お兄さんがいることなどから生活経験も豊富で行動力もありました。内気であったわたしは、その子のようになれたらというあこがれももっていました。その子への配慮は、わたし自身のためでもあったのでしょう。その子と一緒に遊んでいると、自分の枠を超えるものを感じることができていました。家に泣きながら入らないことで、それを無にはしたくないという意思表示をしたかったのではないかと思うのです。

 人は、それぞれに、自分があり、一分をもっています。怒りがあるのも道理。怒りを鎮める器をもたねば。

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