八洲学園大学トップ > 八洲学園大学ブログ > 渡邉達生の研究室便り > 勤労(働くことの意義その二 道徳の授業)
渡邉達生の研究室便り

勤労(働くことの意義その二 道徳の授業)

2010/12/13

ヒヤシンス46日目.JPG

水栽培のヒヤシンスの根が、二リットルのペットボトルの底に着いています。水栽培を始めて、46日目になります。当初は、ペットボトルを上下半分に切った容器で水栽培を始めたのですが、根の伸びる勢いに押されて、フルサイズのペットボトルに変えました。
 ヒヤシンスは、芽を出そうともしません。しかし、水の中の根はぐんぐんと伸ばしています。
 根を十分に伸ばすまで芽は出さぬ、これが、冬を生きるヒヤシンスの人生道なのでしょう。
 冬の時代を生きるとは、そういうことなのです。さもありなん。人も学ぶところ有り、です。

さて、前回の続きです。前回は、勤労感謝の日にちなみ、勤労の意義について問題提起をいたしました。今回は、その勤労をテーマにした、道徳の授業風景の報告です。
 10月の下旬、栃木県の真岡市のある小学校で、小学4年生に、勤労をテーマにした道徳の授業をする機会がありました。
 勤労は日本人に伝えられてきた美徳とも、日本人の国民性を構成する要素ともいわれることがあります。そのときの勤労には、どのような意味をもたせているのでしょうか。
 ・一生けんめいに働くことは美しい。
 ・汗を流して働くことは尊い。
が、考えられます。しかし、ここは、今一歩、踏み込んでみたいところです。一生けんめいに働くことは美しいというとき、一生けんめいであるから美しいのでしょうか、汗を流して働くことは尊いというとき、汗を流すから尊いのでしょうか。もちろん、一生けんめいであること、汗を流すことは、美しいこと、尊いことには違いありません。が、それでは、働くこと自体の価値を言い当ててはいないのです。働くことは、一生けんめいにするからよい、汗を流すからよい、となっています。それでもって、働くことはいいことだと押し付けてしまうと、イソップ話のアリさんのように、一生けんめいに働くことで、かえって心が貧しくなってしまうことが懸念されます。アリさんは一生けんめいに働きました。汗を流して働きました。でも、その結果、食べ物を求めてきたキリギリスさんに、「あなたは働かなかったから、あなたには食べ物をあげない」と意地悪な言葉を言っても平気な心をもつようになってしまったのです。心は豊かではありません。かえって貧しくなっています。これでは働いたことには道徳的価値はない、と思うのです。
 
その、いわば不透明である働くことの価値を、資料をもとに、子どもの眼前で明らかにするのが授業です。資料は単純な展開のものを探し、『チューリップの球根』(文溪堂発行道徳副読本4年)にしました。
 まず、授業の前に、その資料によっていえる、働くことの価値を探ってみました。

『チューリップの球根』という話は、「なおき君」という4年生の子どもが、地域の人たちがお世話をしている花壇の手入れに参加したときのことを題材にした話です。
 なおき君は、日曜日の午前中、家の人の代わりに、花壇の手入れに出なければならなくなりました。なおき君は気がすすまず、しぶしぶと参加しました。ところが、そこには同じクラスの「いさお君」も出てきていました。いさお君は、てきぱきと進んで仕事をしています。そのようすを見て、なおき君は変わりました。チューリップの球根をいためないように、心をこめて植え付けるようになったのです。やがて作業は終わりました。いさお君とは、午後、遊ぶ約束をして家に帰りました。午後になり、家の外に出て、整備された花壇を見たなおき君は、サルビアの花が咲いているのを見て、4月に咲くチューリップのことが楽しみになるのでした。
 ここでの、「なおき君」が心に感じたことを言葉で明らかにすることによって、働くことの大切さを浮き彫りにすることができそうです。なおき君は、それを感じたから、しぶしぶ参加していた気持ちが変わったのでした。

 思うに、しぶしぶ参加した「なおき君」でしたが、てきぱきと作業しているいさお君を見て、予断を振り払って作業をする気になったことでしょう。そして、実際に、新しい気持ちで作業をしてみて、次のような心地よさを味わったのではないでしょうか。
 ・心をこめて仕事をするうれしさ
 ・自分のすることができる満足
 ・人の役に立てるうれしさ
 ・地域の人たちが楽しめる場をつくることができる幸せな気持ち

これらは、自分の気持ちを前向きにしてくれます。仕事を通して、心は価値のある方へ動かされていくのです。その、価値のある方にあるものは、上記のことを整理すると、次のようになるでしょうか。
 ・心をこめて仕事をする
 ・自分のすることができる
 ・人の役に立てる
 ・地域の人たちが楽しめる場をつくることができる
さらには、仕事が終わった後、なおき君はいさお君と遊ぶ約束をしています。これも、働くことがもたらしてくれたものでした。すがすがしい気持ちになって、一緒に仕事をした人と遊びたくなったのです。これも、働くことによってできる価値でしょう。
 ・心の通じる仲間ができる
だから仕事をすることは大切である、といえます。

 以上のことを、整理すると、次のことがいえそうです。
 ・働くことは、心をこめられることをすること
 ・働くことは、自分のすることができることをすること
 ・働くことは、人に認められることをすること
 ・働くことは、人の役に立てることをすること
 ・働くことで、心の通じる仲間ができる
 ・働くことで、みんなの中で自分を成長させていくことができる 

子どもたちがこれらに気づいたとき、授業が成立したことになるのです。

 さて、子どもたちに気づかせたいことについては焦点が定まりました。次は、気づかせていく道筋を練ることになります。道筋には、導入、展開、終末という三つの節をつくります。

道徳の授業は、価値を押し付けてできるものではないといわれています。いくら価値のあることでも、当人がそれを必要と思わなければ、右の耳から入って左の耳に通りぬけるという状況になるのです。脳裏に定着させるためには、自分で関心をもち、今の自分にとって必要なことだとの認識をもたせなければなりません。それが、「導入」の役割です。
 次に、導入で抱いた関心に従って、資料を読み、そこに展開されている人物の人生観に触れます。そのことによって、新しいものの見方に気づくことができます。さらには、そのものの見方で自分のことをふり返ってみます。そうすることで、自分の新しい面に気づくとともに、生きることの幅の広さと深さを知るのです。それが、「展開」の役割です。
 そして、自分の考えを整理し、今後への展望を抱くのが、「終末」の役割です。


授業の構想

導入では、以下の働きかけをしてみることにしました。
(1) 勤労・働く・仕事という言葉のもっている意味に関心をもたせる。
(2) 仕事について、「いい」、「いや」のどちらのイメージをもっているか出し合わせる。
(3)仕事が、「いや」から「いい」になるには、どうすればいいか関心をもたせる。
これをくわしく述べると、次のようになります。
(1) 勤労・働く・仕事の言葉の意味ってどんなこと
 勤労という言葉は日常的に使う言葉ではありませんが、「勤労感謝の日」という祝日があるので、その祝日の意味を理解させるためにも知らせた方がいいと思いました。難しい言葉だ、何の意味だろう、という関心を抱かせることもできます。「勤労」という言葉を国語辞書でひいてみると「働くこと」とありました。「働くこと」を国語辞書でひくと「仕事をすること」とありました。「仕事」を国語辞書でひくと「働くこと」とありました。うぬ、互いに意味をいい合っています。働くことの意味が仕事をすることで、仕事をすることの意味が働くことです。これでは、らちが開きません。国語辞書にたよらずに、自分で、働くことの意味を考えてみよう...、というなげかけができます。そして、資料をもとにして考えることができるのです。授業の終わりに、自分なりに、働くとは...である、というまとめができることをめざしての授業への参加には、関心が高まることでしょう。

(2) 仕事をすることは気分が「いいこと」、それとも「いやなこと」
 さて、このような選択肢のどちらかをとるようにせまられたとき、子どもはどちらをとるでしょうか。悩むことでしょう。いろいろと考えをめぐらせていると、「どちらもある」となるでしょう。そこを、どちらかというと...として、自分の気持ちが多い方を選択するようにさせてみたいと思います。ここでは、「いやなこと」をみんなの前で表明できる雰囲気づくりが、必要となるでしょう。予想としては、「いい」「いや」の双方が出てくると考えられます。これが重要です。これによって学習の必用性を明らかにすることができます。

(3)仕事は「いやなこと」から「いいことに」になるかな
仕事をするとき気分がいやになるという子どもたちが出てきたら、その、いやな気持ちは、どうすればいい気持ちに転換できるか...という課題が生まれます。それに対して、すかさず、「一生けんめいにすればよい」という発言も出てくることでしょう。そのときには、「今まで、一生けんめいにしていても、いやになったことはなかったかな?」となげかけて、一生けんめいにすること以外のことにも目を向けてみるように話しかけます。これで、働くことの価値を学ぶための布石ができます。そこで、お話を読んで、考えてみようと、資料を登場させるのです。

 以上で導入の部は終え、次は展開の部となります。展開の部は二段構造にします。
一段目は、導入での課題を、資料の登場人物の言動を見て解決していくところです。ここでは、子どもたちは新たな価値のあるものの見方に気づくことになります。
二段目は、一段目で気づいたものの見方で自分たちの生活をふり返ります。ここで、子どもたちはふだんの生活のなかで培われている道徳性を更新して行くことになります。子どもたちは、ふだんの学校生活のなかで、掃除や係活動などを通して、働くことの価値と関わっています。これらのときのことを思い起こして、資料で気づいた、働くことに対する新しいものの見方を重ねてみるのです。それによって、資料で学んだことが、自分のこととして、自覚できます。

さて、展開では、次のように問いかけたいと思いました。
一段目
(1)《このお話で、いいなと思うところがありましたか。》
(2)《再び外に出て花壇を見たときの「なおき君」の気持ちを想像してみましょう。》
二段目
(3)《あなたたちも、仕事をしていて、同じところがあるよ。》

(1)のところは、なおき君が、花壇の手入れをしていく過程で気持ちが前向きに変わっていくことを浮き彫りにしたいです。次のような意見の出ることが予想されます。
・いさお君ががんばっていたので、なおき君もがんばれたと思う。
・なおき君は、がんばって仕事をすることができたのでえらいと思う。
・なおき君は、いやだった仕事を、心をこめてすることができるようになった。
なおき君は花壇の手入れに、当初、いやな気持ちを抱いていたのに、それを振り払うことができました。導入での子どもたちの課題に対応するところです。

(2)のところでは、なおき君が花壇の手入れという仕事をすることで味わったであろう、心をこめて仕事をすることができる喜び、自分でできる満足感、他の人に役立てるうれしさ、みんなの楽しい場をつくる幸せな感覚、などを想像させたいです。次のような意見の出ることが予想されます。
・花壇はきれいだ。 
・球根は春にはきれいな花をさかせるだろう。 
・みんなが楽しくすごせるな。 
・仕事をすることでうれしい気持ちになるよ。
このように考えてくると、仕事をすることには、自分を前向きにしてくれる価値があることに気づくことでしょう。

(3)のところは、子どもたちの、係活動や清掃活動、そして当番活動に視点を当てたいと思います。さびしかったり憂うつであったりしたときでも、係活動や当番活動、清掃活動をすることで、自分の気持ちが前向きになることがあったことに気づかせたいのです。

 そして、次が終末です。「働くとは...」と言葉の書き出しを提示し、その後を、書き加えて完成するようにすることで、仕事をすることの意味について自分の考えをまとめさせることにします。また、グループ討議をすることで、他の子どもと意見を交わしながら考えを整理させたいと思いました。
 以上の、導入・展開・終末を、指導案として整理すると、次のようになります。


本授業の展開案

○本授業のねらい
自分で行なわなければならない仕事をするということは、前向きな自分をつくっていくことであることを知り、言われたことにも進んで働こうという気持ちをもつ。

○展開案
(1) 働くことについて考えてみる。
発問①《勤労(働くこと)には、どのような意味があるのだろう?》
・働くことは仕事をすること、仕事をすることは働くこと ・いい言い方はないか
発問②《自分はどんな〔働く〕ことをしているかな?》
・お手伝いをする ・黒板を消す ・掃除をする 
発問③《働くことはいいことなのに、いやになることはないですか?》
・いやになることがある ・いやな気持ちをいい気持ちにかえられるかな 
※仕事が「いや」から「いい」になる方法があるか、関心をもたせて資料へ。

(2) 資料「チューリップの球根」で、仕事をすることの価値を再認識する。
発問④《このお話で、いいなと思うところがありましたか。》
・いさお君ががんばっていたので、なおき君もがんばれたと思う。
・なおき君は、がんばって仕事をすることができたのでえらいと思う。
・なおき君は、いやだった仕事を、心をこめてすることができるようになった。
※花壇の手入れをすることで気持ちが前向きに変わっていくことに視点を当てたい。
発問⑤《再び外に出て花壇を見たときのなおき君の気持ちを想像してみましょう。》
・花だんはきれいだ。 ・きゅうこんは春にはきれいな花をさかせるだろう。 
・みんなが楽しくすごせるな。 ・仕事をすることでうれしい気持ちになる。
※なおき君は仕事をすることで、心をこめて仕事をすることができる喜び、自分でできる満足感、他の人に役立てるうれしさ、みんなの楽しい場をつくる幸せな感覚、などを味わうことができたのではないかと想像させたい。そのような受け止め方が、自分自身を前向きにさせてくれる。仕事は、それをすることを通して、前に向かって進む気持ちをつくり出してくるものであることを明らかにしたい。

(3) 働くことで得ている「前に向かって進む気持ち」を想像する。
発問⑥《あなたたちも、仕事をしていて、同じところがあるよ。》
・学級の係活動で ・当番活動で ・清掃活動で
・みんながいて、やる気が生まれている
※友達や先生がいてくれるから、自分の気持ちが前向きになることに気づかせたい。

(4) 仕事をすることの意味について自分の考えをまとめる。
発問⑦《働くことの意味について、自分でまとめてみましょう。》
(グループで出し合って、一つの表現に練り上げるようにする。)
※人からいわれてする仕事、学級できめられてする仕事、これらをすることで、よりよく生きようとしている自分を感じられることを再認識させ、仕事は自分を前に進めてくれるものであることを、自分なりの表現で感じとらせたい。


授業の実際

 授業のようすを、以下に記述します。
『 』はわたしの言った言葉 「 」は子どもの言った言葉

『今日は勤労ということについて考えます。やがて、やってくる勤労感謝の日の、勤労です。勤労の意味を辞書でひくと働くこととありました。で、働くことを辞書でひくと仕事をすることとありました。で、仕事を辞書でひくと働くこととありました。あれ...です。何だか、心が落ち着かないね。勤労が働くことであることはわかりますが、その、働くことについてはなんだか、よく説明ができていないです。それで、自分たちで考えて、説明できるようにしましょう。』
『ところで、君たちは勤労をしているかな?』
「お手伝いしている、家で。」
『学校では?』
「勉強が仕事。」
『それはおいといて...。』
 きょとんとしている。ふだん、仕事をしているという感覚はない。そこで、教室内に掲示をしてある、係りの仕事のポスターに目を向けることにする。
『あれ、ここに掲示物があるよ。○○係、○○係、○○係、...しているよ。』
 子どもたちは、自分は係活動という仕事をしていたと気がつく。
『もういちど聞きます。学校では、仕事はしている、いない?』
「いる。」
『そのときのことですが...、道徳では心のことを考えます。心は、いい気持ちになってふくらんで、広がっているかな。それとも、いやだと思っているのかな。』
...反応がないため、黒板にいい気持ちのニコニコしている顔と、いやな気持ちのくもりのある表情をしている顔のイラストとをかき、磁石ボタンで、どちらかをマークして、仕事をするとき、どちらの顔になるかを、選択するようにする。
「どっちでもない」という声もあがるが、『中間はだめということにしよう、どっちかというと、どっちが多いかな』、となげかけ、選択してみようという気持ちを促す。
 そして、子どもたちの名前を書いた名刺カードをシャッフルしてめくり、出てきたカードに書かれている名前の子ども指名し、磁石ボタンで、自分はどちらであったかを表示させる。次々と、4名を指名。
 すると、いい顔が2人、いやな顔が2人となる。これで、関心が高まる。全員に、『他の人も手をあげて判断をしみよう』と、なげかける。いやな顔の方に、多くの手があがる。(いい顔が8人、いやな顔が24人)この、いやな顔のところに多くの子どもたちが手をあげたところが、学習の出発点を示してくれている。そこで、おもむろに、話しかける。
『考えてみたいことがあるね。いやな顔のところから、いい顔にいけるといいよね。働くことはいやなこともあるのに、子どものときから、大人になっても、ずっと続いていく。どうして、働くのだろう。』
「働かなければならないから。」
「怒られるから。」
『叱られなくても働くよね。』
「しっかりしているから。」
『そこですね。やらなければならないと思うと、いやになってしまう。でも、いやにはならずに、しっかりにもなれる。ニコニコ顔にもなれるんだよ。どうすればそうなれるか、お話を読んで、考えてみましょう。』
 以上で、導入の部は終わり、次の展開の部に移ります。

 わたしが、資料の<チューリップの球根>を読む。
 読み終わった後、読み物の世界から、現実の世界に切りかえるために、読んだことに対して拍手をしていただけるかな、となげかける。子どもたちの拍手がある。子どもたちは自分の手で拍手をすることによって、受身的な姿勢から、能動的な意識にかわる。
 そこで、問いかける。
『いいなと思うところがありましたか。』
「今日植えた球根が春になると花を咲かせると思うとうれしくなりました。」
『いやだなと思っていたんだけど、うれしくなったんだね。いいところです。』
「いさお君とやったら楽しくなった。」
『いさお君となおき君だったね。二人のいたことが、楽しさになったね。』
 資料のもたらしてくれた、働くことのいいところ(価値のあるところ)に視点が当たったところで、焦点をさらに絞る。
『うれしくなったときのことをもう少しくわしく考えてみよう。どうして、うれしくなったのかな...。』
 子どもたちは、考え込む。ここでは、子どもたちが考え、発表したことをもとに、全体で一緒になって考える雰囲気をつくっていきたいところである。それで、子どもたちが、しゃべりやすい雰囲気をつくるために、次のようになげかけて、隣の人と話すようにする。
『隣の人とジャンケンをして、勝ったら、隣の人に、自分の考えを言ってみよう。』
 子どもたちは、じゃんけんをして、しだいに、にぎやかになっていく。
 しばらくして、全体に聞く。
『どうしてうれしくなったのかなあ、なおき君は。言える人。』
 すると、ポツポツと手があがる。
『1人、2人、3人、4人の手があがりました。じゃあ、聞いてみよう。』
 4人になったところで、4人に順次指名していくことを告げ、ひとりずつ、意見を聞いていく。
「出かけようと外に出たとき、サルビアの花が咲いているのを見てうれしくなった。」
 サルビアの花は、以前から花壇に植えられていた花で、それまで、なおき君は、花壇に、そのような花が植えられていたことには関心をもっていなかったことだろう。でも、花壇の手入れをしたことで、その、サルビアのことに関心が行ったというのである。しかし、もう一歩、踏み込ませ、自分が、花壇の手入れをしたことが、起因していることに気づかせたい。それで、その発言をした子どもにたずねる。
『そこだね。どうして、うれしいんだろう。』
「サルビアは他の人が植えた花。チューリップは自分たちが植えた。したことがわかる。」
 サルビアの花がきれいに咲いているのを見て、やがて、自分たちが植えたチューリップもそのようになると、チューリップの球根を植えたことが、なおき君の心に、誇りのように宿っていることに気づいている。
「早くいい花を咲かせてね。」
 これも、チューリップの球根を植えるという仕事をしたことが、いい余韻を残してくれていることに気づいている。そこで、そこにいた人たちも味わっているのではないかと、次のようになげかける。
『心をこめて仕事をしたからだ。だから、うれしい。知っている人たちが仕事をしている。だから。...』
「自分がいいことをして、みんなのためになるとうれしくなる。」
 自分が働くということは、みんなのことにかかわる仕事をすること、そして、それがうれしさをもたらしてくれることに気づいている。次のようになげかける。
『ということは、仕事をするということは、みんなのためになるということだね。』
「いやであっても、みんなのためになると思うと、そして、いいことをしたんだなと思うと、うれしくなる。」
 いやな気持ちであっても、みんなとかかわる仕事をすることが、いいことをしたという気持ちになり、それが自分をうれしくしてくれることに気づいている。そう思っている人は、自分だけではないことに気づかせるため、次のようになげかける。
『自分がいいことをしたと思う人は?だれ?』
「みんな。」
「社会。」
 働くことが、社会の人たちに向かって自分の心の門戸を開くことであることに気づいている。そこで、その、社会に向かう気持ちに気づかせるために次のようになげかける。
『いいことをしたというのはどんな気持ち?』
「うれしい。いい気持ち。」
 これでは一般的な表現であるので、もっと、深みのある言い方ができるようにと、次のようになげかける。
『でも、たこやきを食べてもいい気持ちだよ。このときのいい気持ちは違うんだね、もっと詳しく。』
 すると、次のように、発言をする。
「みんながいい人だと思ってくれていると思ってうれしくなっている。」
 みんなからの温かい視線を感じるようになった、だから、うれしい。この気持ちは、働くことでみんなとのつながりができたことを感じている。働くことで社会性ができることに視点が行った。また、次の発言がある。
「一人でやるより、仲間がふえてうれしくなって、来年花が咲くと思うとうれしくなる。」
『今まで、近所の人とは仲間なんて感じではなかったけれど、仲間の感じがしてくるね。』
 働くことは、仲間をふやしていくことになる。これは、いい視点である。そこで、いさお君のことにもふれる。
『いさお君となおき君は、午後、お昼を食べて、どうした? 』
「遊びに行った。」
『仲良くなったんだね。これも、一緒に仕事をしたからのこと。』
 一緒に働くことで友達ができる。働くことによって、互いに理解し合えるからでもある。これも、大切な視点である。
 ここで、黒板をふりかえって、まとめることにする。
『こういう気持ちで仕事をしていると、うれしい気持ちになっていくね。人間にとって、大切なことだと思うよ。うれしさをつくりだせる、それが仕事かもしれません。』
 ここで、展開の二段目に移り、子どもたちの実際での生活のようすをふりかえるところであるが、残された時間が少ないので、ここで実際での生活のようすを振り返ることは省略し、最後のところで、生き生きと当番活動という仕事をしていることに、ふれることにする。
 以上で、展開の部を終える。

 BGMを流して雰囲気を変え、次のように新しい学習活動をなげかける。
『さて、机を、グループにしてください。グループに一枚、画用紙を配りますので、グループで、「働くとは...」というように、働くことの意味を考え、書いてみましょう。班長さん、よろしく。』
 子どもたちは、机を移動してグループで囲む。班長を中心に、話合いが始まる。

(3分後)
『では、班長さん、前に出て来て、発表をお願いします。』
 子どもたち、画用紙を持って前に出てきて発表をする。
「働くとは、みんなの役に立ち、みんなのためになること。」
「働くとは、みんなのためになる、自分もうれしくなるし社会のためにもなること。」
「働くとは、みんなのために心をこめてすること。」
「働くとは、人のためにやること。」
「働くとは、つらいこともあるけれど、社会のためになることで、人のためになること。」
 
 このグループでの話し合いの成果には、各グループにいる子どもたちの思いが反映されています。働くことに対してのものの見方も深まっています。それで、次のようになげかけ、授業を終えることにしました。
『働くと、心が広がっていくね。いやな気持ちがあっても、働くことで、それを越えていくことができます。では、今日の道徳の勉強を終わります。』
『当番さん、お願いします。』
 日直当番の子どもが、次のように、号令をかけました。
「これで、5時間目の勉強を終わります。れい。」
 日直当番の号令の声が、すがすがしく教室内にひびきました。そして、全員が、心をしずめておじぎをしました。...これが、日直当番の仕事の成果です。このことにふれます。
『当番さん、いい仕事をしています。』
 先ほどの、展開の二段目のところで、子どもの生活を振り返るところを省略したことのかわりです。


追伸

子どもへの授業は終わりました。
番外編として、大人である、わたしたちのことについて、考えを深めてみしょう。
みなさんは、人は働くことによって何ができるか、と問われたら、何と答えますか。

かつて、そのように、自問自答したことがありました。そのとき、自分の体験から、次の、11通りの考えが浮かびました。

○人は、働くことによって、自分の力を増やしていくことができます。
○人は、働くことによって、いやな気持ちを切りかえていくことができます。
○人は、働くことによって、思いやりの気持ちを持つことができます。
○人は、働くことによって、感謝の気持ちを持つことができます。
○人は、働くことによって、満足感を味わうことができます。
○人は、働くことによって、自信を持つことができます。
○人は、働くことによって、喜びを味わうことができます。
○人は、働くことによって、人とかかわりを持つことができます。
○人は、働くことによって、誇りを持つことができます。
○人は、働くことによって、信頼されることができます。
○人は、働くことによって、かけがえのない存在となります。

このように考えてみると、働くことが、人が生きるうえでの「大切なもの」を授けてくれていることに気づきます。
 みなさんも、自分の体験から考えてみませんか。

まとめると、次のような観点に絞られます。
○働くことは自分を広げる
○働くことは自分を生かす
○働くことは他の人に喜びを与える
○働くことは他の人から喜びをもらう
○働くことはみんなと共によく生きようとする

人は、働くことによって、〔社会〕で 自分の足場を確保することができます。そして、 そこにいる人や〔社会〕を支えることができます。
 この〔社会〕を、〔家族〕、〔学校〕、〔地域〕、〔会社〕、〔サークル〕、〔趣味の会〕などに置き換えることで、働くという観点から自分の生き方を高めていくことができます。

 わたしが作りました人生カードのなかから、
  働くことに関するカードを引き出してみました。
  人生カードの必要な方、連絡をください。トランプ仕様で、52枚あります。
image1.gif

 
八洲学園大学 〒220-0021 神奈川県横浜市西区桜木町7丁目42番地

出願・資格取得について・入学前相談・教育訓練給付金等はこちら
 入学支援相談センター 045-410-0515/u-info@yashima.ac.jp

在学生・卒業生・教員免許状更新講習・就職関連はこちら
 学生支援センター 045-410-0515/u-info@yashima.ac.jp

広報・公開講座・教員への取材等はこちら
 総務課広報係 045-313-5454/u-yue@yashima.ac.jp

八洲学園大学パンフレット ※八洲学園大学の各種資料をダウンロード頂けます。

ご希望の資料はPDFでも閲覧可能です。
PDFファイルを閲覧するには、Adobe Acrobat Readerをインストールしてください。

八洲学園大学

学校法人八洲学園大学 入学支援相談センター

〒220-0021 神奈川県横浜市西区桜木町7丁目42番地
電話:045-410-0515(受付時間はこちら
お気軽にお電話ください

  • 資料請求
  • 出願受付
JIHEE