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渡邉達生の研究室便り

ねじられて始まること

2011/01/12

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年末・年始に帰省しました。お正月には、近所の人が正月料理を差し入れてくれました。うれしかったです。子どものとき、その家には、おじいさんがいました。そのおじいさんのすることを見ていて、いろいろなことを学びました。「わらじつくり」もそうです。そのときの光景を、なつかしく思い出しました。
 ワラを木槌で打ち、やわらかくして、縄をない(ワラをねじって縄にしていくことを「なう」と言います。)、その縄を大きなハート型にして、その間にワラを交互にさして、わらじの形にしていくのです。見事な手さばきでした。

 子どものとき、そのしぐさをよく見ていたからでしょう。わたしは、今、縄をなうこと・わらじをつくることができます。で、昨年、わらじをつくりました。正確には、布でつくったので「布ぞうり」というべきなのでしょう。写真がそれです。青色の足を乗せる部分は子どもの古くなったパジャマでつくり、茶色と白のまだらになっている「はなお」の部分は家内の着なくなったTシャツでつくりました。名づけて、親子、です。「はなお」の部分に、布をねじっているあとがよく出ています。
 ねじるということ、そして、その結果のねじれるということは、一般にはものごとがスムーズに進まないことや、むだなことの代名詞のように受け取られがちです。しかし、やわらかかったワラや布も、ねじられることで丈夫になり、美しい形を成すことができるのです。それは、他者にねじられることで、芯となるものができるからではないか...。

 そのように思っていて、気づくことがありました。
 かつてたしなんでいた弓道では、矢に羽根がついていましたが、その羽根は少しねじってつけられていました。
 弓から放たれた矢は、空気の抵抗を受けて進むことになります。空気は、矢の勢いをさえぎるブレーキとなるのです。飛んでいる矢は、ねじってつけられた羽根に当たった空気に押されて、羽根のねじれた方向に回転を始めることになります。回転することは、前に進むことには無駄なことのように思えますが、回転することで、飛行中のコントロールがきかない矢に芯ができ、矢はぶれないで、ねらい通りに飛ぶことができるのです。
 他者にねじられることで、芯ができて丈夫になり、自らをよい形にコントロールすることができる...何だか、このことは、他者とかかわることの奥の深さを知らせてくれているようです。

 人は、他の人と、人間関係をねじれさせて、苦しみの中に陥ることもあります。でも、そのときもまた、揺れる心を回転させることで、芯となる真実を見つけることができるのではないでしょうか。そのとき作り出される芯となるものが、自らを、苦しみから抜け出す美しさに導いてくれるのだと思います。
 
『心に羅針盤』(後述)には、ある学生さんから、次の手記が寄せられていました。
◇ 美しいものを感じる力  
 息子が五歳の時、幼稚園でトラブルに巻き込まれた。ある体の大きい子が順番を待つ列を無視し、ブランコから息子を引きずり下ろしたのだ。息子は顔を地面に打ち、口の中を切った。その息子を迎えに行った時、彼は部屋の片隅で真っ青な顔をし、痛みと恐怖にふるえていた。
 幸いケガは軽く済んだが、次の日から登園拒否が始まった。登園時間になると、泣き出して動かないのである。恐怖を取り除かない限り、無理矢理行かせても解決にはならない。しばらく家でのんびり過ごさせることにした。
 その時、彼のお気に入りとなったのが『ラチとらいおん』という絵本である。世界中で一番弱虫の男の子ラチが、小さな赤いらいおんに支えられながら精神的に強くなっていく。最後にラチは、自分より大きな相手に立ち向かって勝つ。小さなライオンに励まされ、自らの弱さと戦い、勇気をふりしぼって前に進もうとする姿は美しく、何度読んでも胸を打つ。
 実は、この絵本は、私が高校時代にクラスメイトからいじめにあっていた時、私の心の支えになってくれた作品でもある。私自身、心が弱っていた時、繰り返し読むことで勇気をもらっていた。今こそ我が子に読む時が来たと思い、立ち直ってくれるよう願いを込めて読んだ。一日に何度となく「よんで」と言われ、絵本を読む日々が続いた。
 人は、心に元気が足りない時、思考も視界も狭く暗くなってしまう。うつむきながら歩くようなものである。そのようなとき、ふと見上げた夜空に美しい満月が浮かんでいたらどうだろう。ただ満月を見ただけで、何だかうれしい気持ちになるに違いない。事実、私がそうだった。視界が晴れ、広がったように感じた。美しいものを感じることは、生きることの喜び・楽しさ・希望を感じる一番即効性のある方法ではないだろうか。
 登園拒否が10日ほど続いたある日、息子は幼稚園に行くと言い出した。絵本は私の気持ちを乗せて、幼い心に希望を届けてくれた。嘘のような本当の話である。
 生きていくことは楽しいことばかりではない。子どもが悲しみ・不安・絶望と向き合った時、相談してくれれば話をきくことはできる。しかし思春期の入口にいる子どもたちが、自分の苦しみを親に語れるとは限らない。そのような時、自分を支えてくれるものの一つとして、「美しいものを感じること」を手がかりにしてもらいたいと考える。
 美しいものを感じる力は、美しいものを美しいと認識できる土台があって初めて生まれる。美しいものを感じて生きる子に育てるため、登山やキャンプ等自然体験をし、絵本や文学作品の読み聞かせ等を積極的に行い、土台が培われるよう心がけたい。そして私自身も日々美しいものを感じて生きる親でありたい。

 お母さんも、子どもさんも、苦しみの中から、自分の心に、芯となるものを見つけることができています。生きるということは、自分の思い描いたようには行きません。他者とのかかわりの中では、苦しみの中に陥ることもあるでしょう。でも、ねじれて、回転させるからこそ見つかる、美しいものがあります。
 人は、他者によって、ねじられ、不安になることがあります。でも、そのことによって、つよく、たくましくなることも、確かにあるのです。

 子どものとき、わらじをつくるのを見せてくれた近所のおじいさん。
 今、おじいさんのおかげで、いろいろなことがわかるようになりました。ありがとう。


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『心に羅針盤』...生命尊重と家庭教育の資料集として、33名の方の手記を載せた、小冊子(写真右)です。関心のある方には無料で進呈しています。希望者は、届け先と、送料として210円分の切手を同封し、下記の住所まで、郵送してください。
 〒220-0021
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            八洲学園大学 渡邉達生

 
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