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渡邉達生の研究室便り

せいせき せきせつ せきにん

2012/03/12

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二週間ほど前、ドカンと雪が降りました。写真はそのときに見た光景です。深い「せきせつ」となりました。昨日は冷たい風が吹きました。三月となっても、まだ、雪の降る気配を感じる日があります。今年の冬は、雪がよく降りました。

 そして、三月といえば、年度の終わり。学校では、学年が終わり、「せいせき」が発表されます。勉強をしたことの成果がどうであったかは気になるところです。知らされることには不安もありますが、自分のがんばりを客観的に見ることができる、よい機会です。いやな気持ちになったら、発奮材料にしてみましょう。足は前に向いています。

この、「せきせつ」と「せいせき」という言葉で、思い出すことがあります。あれは、確か、小学5年生のときでした。漢字テストで、「せいせき」という問題が出たことがあります。わたしは、「せき」という漢字をどう書くか迷いました。「積」と「績」のどちらを書くべきか、悩んだのです。

授業中、先生が「績」の文字を書いていたような気もしましたが、意味から考えると、「積」は積むという意味で使います。積雪がそうです。「せいせき」も積み重ねるものです。それに比べて、「績」は紡績工場の績で、糸をつむぐ様子のようです。それで、考えた末に納得の判断で、「成積」と書きました。意味が合ってこその漢字だと思ったのでした。

ところが、返された答案には、×がつけられているではありませんか。それを見て、「えっ、どうしてこれが違うの」と大声をあげて近くの人に見せると、笑われてしまいました。違ったのはわたしだけで、正解は「成績」でした。あ~あ、はずかしさをダブルにしてしまいました。その日の夜、家でも母にあきれられてしまいました。以来、そのことがトラウマとなり、「せき」の漢字の使い方にいつも不安がつきまとうようになりました。書くときには、「せいせきは糸へん」と、おまじないのような言葉を自分に言い聞かせてきました。

でも、なぜ、成績の「せき」は糸へんで、禾へんではいけないのでしょう。禾へんの方が、稲という文字に使われているように、努力をして実りを得ることに通じているようです。ちなみに、積立貯金の「積」も禾へんです。勉強の成果を示す「せいせき」も、禾へんの方がいいのではないか...と、昔の人たちの気持ちが、今一つ伝わってきません。たわいもないことのようですが、知っておくべきことのような気がします。そこで、この年になって、重い腰をあげ、調べてみることにしました。

で、わかったことは、漢字も、人の生活の発展に連れて、進化するということでした。そもそもの大昔に、「責」という漢字が生み出され、使われているうちに、使われる意味が広がって、それぞれを区別するために、禾へんの積や、糸へんの績が、つくられたということです。だから、積にも績にも、責の部分があり、これらの文字は責をルーツにする親戚だったのです。

責は上下、二つのパーツからできています。下部は貝の形を模したもので、当時、子安貝という貝は、大切な財産の象徴でした。また、上部は棘(とげ)がついた棍棒のようなものだといわれています。バラの茎を太くしたようなものでしょうか。それでたたかれると痛いです。棘のついた棍棒は痛さを受けることの象徴でしょう。「財産」と、「とげのついた棍棒で殴られる痛み」との取り合わせが示すものとは、一体何なのでしょう。

思うに、財を成すためには、人との間で財の貸し借りをしたり、自分で貯蓄をしたりしますが、そのことは苦しみを生み出します。現代でも、何かの事を起こそうとして、金銭トラブルになることが多いですね。その、何かの事を起こそうとして、発生する苦しみや痛みを、「責」という文字で表していたのでしょう。となると、「責任」とは、自分に痛みを感じてこそ、その実態をつかむということになります。痛みを伴わなければ、責任をとったとはいえないのです。そういえば、良心の呵責(かしゃく)という言葉も、それを裏付けています。

 時代が進歩し、産業が盛んになると、その場で働く人たちの間に共通の文化圏ができます。農業が「積」の発生に、工業が「績」の発生に、一役買ったのではないかと考えてみました。

 積の発生... 責に加えられた禾へん(のぎへん)は、麦などの穀物の形からできています。穀物という財を得るには、畑に実った穀物を刈り取り、集めるという、体を酷使する作業をすることになります。力を込めて作業をすることで、豊かな実りを山積みにすることができるのです。

 績の発生...責に加えられた糸へん(いとへん)は、布を織るための糸を束ねた形からできています。布という財を得るには、縦に張られた何本もの縦糸の間に、一本ずつ横糸を通す作業をするのでした。細い糸を積み重ねて布にするには、気の遠くなるような時間がかかります。その間、気持ちを張りつめて作業を続けることで、立派で、美しく、丈夫な布ができ上がるのです。

 積も績も、身に痛みを感じる作業を通して、その成果としての財を得ることを表しているようです。前者は力によって事がなされること、後者は期日をかけ、気持ちをはりつめることによって事が成されることが、特徴といえそうです。また、その成果として、前者には量が、後者には質が問われることになりますね。

 だからでしょう、積は、積雪・集積・山積という言葉で使われ、績は、成績、業績、功績という言葉で使われるのですね。うぬ、深い。

 そうそう、半年ほど前、小学6年生を担任している先生が、子どものようすを知らせてくれたことを思い出しました。ある子どもが、鉛筆を手で削るという目標を立て、毎日、鉛筆をカッターナイフで削っているというのです。そして、自分で決めたことだから自分で責任をもって取り組んでいるということでした。鉛筆を手で削ることは、簡単なようであってむずかしいことです。それにもめげずに、日々、精神を集中させ、美しく仕上げようと取り組んでいたことでしょう。それは、まさに「績」です。身近にある、ささいなことで、心に刺激を与える責任の在り方を学ぶことができていました。その学校では、来週の月曜日、3月19日が卒業式だと聞きました。いい成績を修めての、いい門出の日です。

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