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渡邉達生の研究室便り

青いということ

2012/09/27

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「きおう」というリンゴが食卓にありました。青いリンゴです。「青いリンゴ」で野口五郎をイメージできる人は、人生のベテランの域に入るでしょう。当時、わたしも「青」かった。この青いリンゴは、見れば見るほど、心をひきつけます。

 青いリンゴは、青くはない、しかし、青い。なんだかわけのわからない言い方ですが、そのように言葉をつかえるのも、人間ならではのこと。色でいえば、このリンゴは緑のリンゴ。でも、いいのです。青いのです。

 「青」という字の上部は草の新芽が土の上に生えているようすをかたどったもので、下部は土の中から清水がわきでている井戸のようすをかたどったものだといいます。

 なんと、草の新芽のさわやかさと、井戸にわく清水のきよらかさ。このコラボが青のいわんとすることで、いずれも豊かな大地から生まれ出でたものです。

 だからでしょう。「青」は、「清々しい」「情け深い」「精を出す」「精一杯に」「静かに」「晴れ晴れと」「素晴らしい」と、心が洗われるような良い状態をあらわす文字の中につかわれています。

その「青」のすべてが、昨日届いた手紙からもにじみ出てきます。手紙の差出人は二十数年前の小学1年生。1年生から3年生までを担任した子どもでした。今は、バレエ教室を主宰し、多くの方々にバレエの楽しさを教え、慕われているバレエダンサーで、ピラティスマスタートレーナー。単身、アメリカやイタリアにわたり、自分をみがき、劇団に入り、そして、独立。その間、多くの困難に立ち向かい、克服されてきたことは、想像するに難くありません。

実は、その方とは、数日前、思わぬところで、劇的な出会いがあったのでした。そして、昨日、ていねいなお手紙をいただいたのでした。わたしには、あまりにももったいない内容が書かれていました。

「...嫌なことも、つらいことも経て、今思い出すことは小学生の頃の出来事ばかりです。何から書いたらいいのかわからないくらい、先生が私達に与えくださったこと、全てが、今の自分に、仕事に現れています。先日、お話していて、私の考え方、私という人間は、先生が培ってきたことを惜しみなく与えて下さったものでできていると再確認しました。...」

この言葉に、わたしは、こうべをたれました。青いわたしではありましたが、教師という仕事は、なんという大きなものであったのでしょう。そして、子どもが精一杯に生きて大人になって行くことの素晴らしさを、ひしひしと感じました。そこには美しさがあります。勇気をふるってお返事を書かねば...青いリンゴは、わたしに喝を入れます。

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