ときおり、幼いころに見た景色を思い出し、気にかかることがある。あの景色は、今ごろ、どのようになっているかと。その中の一つに、とある温泉地がある。子どものころ、親に連れて行ってもらった場所だ。そこは、河口近くの川のほとりだった。窓からは、引き潮でできた砂浜の上に、ロープにつながれた小舟が並んでいるのが見えた。舟は水に浮かんでいるのではないのにロープにつながれていたのだ。山の中で暮らしていたわたしには、引き潮の光景が、なんともおもしろかった。
先日の土曜・日曜、所用があり郷里に帰った。少し時間があったので、その地に足を伸ばした。小雨の降る中、その場所は、確かにあった。が、川岸はコンクリートになっていた。しかも、満ち潮だった。
しかし、なんとなく、昔を思い出させるものがある。過去の、砂浜の上につながれていた小舟群を想像して、しばしノスタルジアに浸った。懐かしかった。幼き頃、親がこの地に連れて来てくれたことに、改めて感謝。親の思いが、五十数年の時空を超えて届いた気がした。